仕事が終わった後、
どうしても大きな本屋さんに行きたいという
衝動に駆られて、六本木のABCに行った。
(そこまで大きくないけれど)
本の配置が絶妙なのに感心しつつ
全体を順に見回してみたものの、
立ち読みのわずかな時間で引き込ませる本が
特になかったので、そのまま出て、
六本木ヒルズのほうに歩いていった。
六本木ヒルズの中をフラフラ歩いても、
圧倒的な都会のセンスにうんざりするばかりで、
その日はどうにも、その煌びやかな賑わいを
身体が受け入れられなかった。
すぐに外に出て、どこへともなく歩いていくと、
暗闇の溜まる駐車場の一隅に、
柔らかいオレンジの光の下に、輝く大小の野菜が
並べられているのが目に入った。

あまりにも、都会の風景が私の心を潤さないので、
その反動でなのか、余計に感動してしまった。
やや興奮気味に野菜を売っていたお母さんに
話しかけると、土で汚れきった爪を見せながら、
「お風呂に入っていないわけではないのよ、
完全無農薬だからね、雑草も虫も取り除かなければならないの。」
そして、袖まくりをして、白い肌が如何に焼けてしまったか教えてくれた。
「ほら、こんなに。でもね、すごく幸せな気持ちなのよ。」
その笑顔にたちまち心を奪われてしまった。
そしてその野菜を売る女性とすぐに仲良くなった。
埼玉にあるという農地に連れて行ってもらいたいと
懇願したら、月曜日ならいいわよーって。月曜日か。。
絶え間なくやってきては買い物していくセレブたちを見ながら、
価格が高いという理由で受け入れられにくい有機野菜を、
この麻布十番という場で、うまいこと売ってるな、
と笑顔の下に潜むしたたかさに唸ってしまう。
とはいえ、野菜の甘さと瑞々しさと
お母さんの笑顔はホンモノだから、お客さんのほとんどが
常連さんだということもうなずけた。
会社が麻布十番にお引越しするから、
ちょくちょく遊びに良く約束をした。